\”好き”から始まる物語/

プラモデルから戦争体験の語り部へ…

高校のクロスカリキュラム授業の報告です。
少々長いですが、多くの方に届けたい。ぜひお読みください。

===============

高校2年生のある生徒は、軍艦のプラモデルを作るのが好きでした。
保護者の方も、なぜ好きなんだろう?と思っていましたが、たくさんの軍艦のプラモデルを作り、コレクションをしていました。

 

高校1年の夏、「プレゼン型三者面談」にて、好きな軍艦を紹介する動画を作成しました。
その時、初めてその想いを聞くことができました。

「自分の祖母が戦争体験者だからこそ、そのことを風化させたくない。」

戦争を経験していない自分だけど、軍艦を通して何かが見えるかもしれない。
自分にも、何かを伝えることができるかもしれない。
何か、できることがあるかもしれない。

クロスカリキュラムの授業で好きなことを探究していたら、一つの本に出会いました。

『「雪風」に乗った少年〜十五歳で出征した「海軍特別年少兵」〜』
西崎信夫 著/小川万海子 編

名誉の戦死を遂げて戦神となることが当たり前だった世界で、「必ず生きて帰ってきてね」という母の言葉を大切に、生き抜いた方の書籍でした。
その時代に生きていなかった自分には想像もできない葛藤、生き残ったことへの想いが、綴られていました。

衝撃を受けました。もっと知りたくなりました。
そして、さらに調べました。
ネットを調べたり、出版社に問い合わせたり…

すると、著者の西崎さんが、会いに行ける場所にいらっしゃることがわかりました。

会いたい、話を聞きたい。その想いが募り、震える手で電話をかけました。
緊張で声も震え、何を言ったかも覚えていないくらいで、きっと聞き取りづらかったと思います。
それでも、西崎さんはしっかりと受け止めてくれ、会っていただけることになりました。

会って、話を聞いて、インタビューをして…
「機関銃を撃ち合った。相手が見えた。自分も相手も、泣いていたんだ…」
「戦争が終わって帰って、母に「敗戦してすみません」と言った。母は「何を言っているの、命あることが全てよ。」と言ってくれた。」

その言葉を、伝えなければ、と思いました。
その記憶を、残さねばと思いました。

だから、インタビューした様子をまとめた動画を作り、文化祭や学習発表会で披露しました。

少しは伝えられたかもしれない。
何かできたかもしれない。

西崎さんの言葉は、そのあともずっと背中を押してくれました。
「講演会等で話をしても、若い人はなかなかいない。若い人にどう伝えたらいいか、悩んでいた」
「こうやって生徒が会いに来てくれたのは、初めてだ。だから、嬉しい。会いにきてくれて、とても嬉しい。」

6月23日、沖縄県の慰霊の日であることを知りました。
西崎さんもその場にいたであろう、沖縄戦の、慰霊の日だと知りました。

「みんなにも知ってほしい」
「みんなにも伝えたい」

その想いが、彼を動かしました。

そして、6月23日、高校2年生になった彼は再び西崎さんの自宅に伺いました。
隣には、彼の仲間もいて、手にはタブレットとポケットWi-Fiを持って、震える手で三脚をセットしました。

Zoomを繋ぐと、その先には100人を超える新渡戸の高校生がいました。
自分が聞いた話を、衝撃を受けた想いを、みんなと共有したい。
同じ高校生である自分だからこそ、伝えられることがあるはず。

学校側でも、多くの仲間がサポートしてくれました。
全体の司会、配信のセッティングなど、みんなで授業を作ることができました。

ついに、西崎さんの言葉を、想いを、友人に届けることができました。
「戦争体験者から聞く、オンライン授業」を、実現することができました。

好きだった「軍艦」から始まった、想いを繋ぐ授業。
与えられるものではなく、教科書にあるものではなく、自分だけの授業。

全ての生徒がもつ「好き」から始めることで生まれる「価値」と「可能性」。
それこそが、新渡戸の目指す「授業」なのかもしれません。

西崎さんはおっしゃっていました。
「感染症の拡大もあり、体力的にも、今後語り部を続けるか悩んでいた」
「でも、こんなふうに伝えられることを初めて知った。まだできることがあると思った」
「また、ぜひやりましょう」
「ぜひ、ほかの学校にも広げてください」

本当に学びたいものは、自分の中にある。
本当に大切なものは、人との繋がりの中で生まれる。
そんな、1人の生徒の物語でした。

 

==================